雑記帳

電子計算機の"明後日"から、他愛もない話まで。

電力アンプ再び(バランス入出力)

以前、「電力アンプ」なるものを紹介しました。

以来、あの系統のアンプを使っているのですが、現在私が使っているのは以下のような構成です。

 
(負荷に日本ビクター SX-WD5KTを繋ぐ場合)
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(負荷にPARC Audio DCU-F071Wを繋ぐ場合)
イメージ 2
 
上記記事でも触れた通り、発案者の方が「個人利用に限定され、著作権者の許可なく商用利用できません」として公表されているアイディアをベースにしていますので、こちらも同様の取り扱いをお願いいたします。

 

一番大きな変更点は入出力共に平衡回路化したところです。これによって、仮想GNDにL/RChの信号電流が流れ込むことがなくなりますので、クロストークの大幅な改善が期待できます。また、仮想GNDの安定化に心血を注ぐ必要もありません(フラつく要因がありませんので、適当に抵抗で分圧しておけばOKとなります)。

また、出力電流が稼げるタイプのオペアンプ(AD8397)に変え、直接低インピーダンスの負荷をドライブさせるようにしてみました。元回路のままだと検流抵抗の値が小さくなりすぎてしまうので、(出力は幾分か落ちますが)検流抵抗自身で公称インピーダンス近傍となる帯域でのマッチングを取り、正帰還は補助的に使う形へ変更しています。尚、正帰還をかけている部分の回路を取っ払うと、ただ公称インピーダンスでマッチングを取っただけの電圧出力アンプになります。

AD8397のデータシートを見ると、5V駆動した際のピーク出力電流は230mAとありますので、6Ω負荷で最大317mW程度の出力となります。こう書くと音が小さすぎて使い物にならない気がしそうですが、例えば87dB/W/mのスピーカであれば上記出力での1m先での音圧は約82dBとなります。昼間の静かな室内での騒音が約50dB位と言われていますので、これだけの音圧が得られれば家庭で音楽を聴く分には十分過ぎるのではないかと思います(まぁ防音のリスニングルームとか持っている方なら別でしょうけど)。

 

当初は元回路と同様、正帰還を抵抗1本で済ますようにしていたのですが、スピーカはヘッドフォンに比べてインピーダンスの変化が激しい為、高域(インダクタンス成分によるインピーダンス上昇部分)での消費電力低下を補えるような値(47kΩ)を選ぶと、f0周辺の低域も一緒に持ち上がってしまって近所迷惑な音になってしまいました。このため、正帰還にHPFを仕込み、インダクタンスの影響が出る帯域だけ正帰還が効くようにすることで、インピーダンス変化が激しいスピーカ負荷でも、f0以上がなるべくフラットな出力となるようにしています。逆にf0近辺は消費電力が小さくなってしまいますが、ここから低域にかけてはそもそも急激に能率が悪くなるところですので、今回は諦めました(正帰還部にLC共振とかを仕込めばできなくはないのでしょうが…)。

このため、元回路のように「負荷に合わせて検流抵抗を設定すればOK」とはいかなくなってしまいました…。上記の回路は、対象となる負荷のインピーダンスカーブを模した等価回路を使い、LTSpiceで良さそうな出力特性になるよう追い込んで設定しています。このため、製作に際して予め使用スピーカのインピーダンスカーブを入手 or 測定しておく必要があります。

 

ちなみに、日本ビクター SX-WD5KTの等価回路は以前紹介しましたが、今回の正帰還回路を決めるにあたってPARC Audio DCU-F071Wの等価回路も作ってみましたのでこちらに掲載しておきます。例によって位相成分はアテになりません。また、メーカー公表のグラフを元にしていますので、箱に取り付けた場合は若干異なる特性になる可能性があります。

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これを先程のアンプに繋いだときの出力特性は以下のようになります(SX-WD5KTの方はネットワーク改造済の回路に合わせてあるので、記載を割愛します。)。
(負荷がGNDに落ちていないと正しく解析できないため、負荷側の回路が凄いことになっていますが、これでも計算すると元のインピーダンスと同じになります。)

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このように、正帰還によってf0以上の領域で負荷の消費電力がほぼフラットになっているのがわかるかと思います。

 

実際に使ってみた印象ですが、平衡回路化が効いたようで、ステレオ感といいますか、左右の音の分離っぷりが非常に素敵で、それによって定位も綺麗に定まっています。また、中央付近とか中途半端な定位で鳴っている音とかもグシャグシャにならず、端の方で鳴っている音と変わりなく聴こえます。差動化の恩恵がここまであるのであれば、本当はDACから入力トランスまでの経路も差動信号にしたいところですけど、うちのサウンドカードのDAC(WM8716)はアンバランス出力で、しかも中間電位の出力端子(VMIDR/L)は信号経路とは繋がっていないらしく、ここを仮想GND代わりにしても出力は得られませんでした…(いっそのこと差動電圧出力のDACチップを使ってUSB-DACでも作るか…)。

正帰還についてもそれなりに効果があるようで、マッチングのみの場合と正帰還アリでは、正帰還アリの方がアタック音(鈴とか打楽器の打撃音、或いはギターのピック弾きの音)や反響音等が綺麗に聴こえます。綺麗に録音されたものですと非常に生々しい音を出すことがあります。スタジオ録音とかだと分かりにくいですけど、ライブ録音モノ等では良さを実感しやすいです。それでいて聴き疲れも特に感じません。一方で妥協した低音域についても、特に不足は感じられません(きっとカタログスペック通り出ているんだろうなという印象です)。曲がりなりにもDCアンプですので、アンプ側の都合で低域が痩せたりする問題はないのだろうと思います。尚、DCオフセットを実測しましたが測定限界以下(約10mV未満)でした。

 

個人的には満足な結果が得られました。もし気になる方がいらっしゃいましたら、前述の制約をお守りの上、是非お試しください。